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第36-3話 闇に紛れる者

Author: 百舌巌
last update Last Updated: 2025-04-22 11:39:22

 道半ばまで来た時に不意にクーカが立ち止まった。工場入り口までは一本道だ。迷うような場所では無い筈の場所だ。

「右に三人…… 左に二人…… 化学工場に狙撃者が一人いるわ……」

 クーカがそう呟いた。

「……」

 目を凝らしたが先島には見えなかった。

 不意にクーカが空中に何かを放り投げる。次の瞬間。辺りは閃光に満たされた。

 彼女が使ったのはスタン・グレネードにも使われる、アルミニウムと過塩素酸カリウムで練り込んだお手製の閃光手榴弾だ。きっとヨハンセンが作成してくれたものであろう。

 襲撃されるのが分かっているのに暗くしている理由は暗視スコープを使用しているからだ。クーカは相手の視覚を奪って有利に事を運ぼうとしていた。

(いやいや…… 先に言ってよ……)

 先島が閃光に戸惑って立ち止まっていると、通用道路の右側を目指してクーカが走り出した。走ると言うよりは飛び込んでいくと言う方が合ってるのかもしれない。それと同時にククリナイフを外套から覗かせているのが分かった。

「うぐっ」

「そっちに行ったぞっ!」

「ぎゃっ!」

 声を掛ける間もなく暗闇の中から叫び声が聞こえた。銃声が聞こえない所を見ると相手が構える前に始末をつけているらしい。

「仕事が早いな……」

 先島も弾かれたように左側の樹の根元に銃弾を送り込んだ。ほんの一瞬だが人が居る気配がしたからだ。

「ぐあっ!」

 樹の根元に居た一人に命中した。目線を上に向けると樹の上にもう一人居るのに気が付いた。

 上半身を起こしている。狙撃するつもりがいきなりの閃光で気が動転していたに違いない。無防備な状態で顔から暗視スコープを外そうとしているらしかった。

 先島は続けざまに銃弾を送り込んでやった。樹の上の男はスローモーションのように落ちて行った。

 その様子を見ていたクーカは先島に近寄ろうとした。すると。

ヒュンッ

 クーカの耳元を何かが通り過ぎ、傍の樹木に弾痕を作った。狙撃されたのだ。

(そういえば狙撃手が居たわね……)

 足元を見ると倒れた男はライフルを持っていた。クーカはそれを拾い化学工場に向かって立膝で構えた。狙撃手を片付ける為だ。

 大体の所に狙いを付けると引き金を引く。自分の狙撃銃では無いので撃ちながら調整する為だ。

 一発目。

(左に逸れている……)

 二発目。

(右に逸れた……)

 三発目。

(これでお終い……
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    「?」 クーカが小首を傾げる。「特殊なキーが必要なのさ……」 大関の額から汗が垂れ始めた。「どうせ、貴方の網膜認証と指紋なんでしょ?」 クーカが目を指差しながら聞いた。ありふれた防犯装置だからだ。「ああ、生憎と怪我で動けなくなってしまったね……」 大関はそう言ってニヤリと笑った。その足元には血溜まりが出来始めている。銃撃戦での流れ弾に当たったのだ。「じゃあ、本人が生きている必要があるの?」 彼女は大関にグッと顔を近づけて言い放った。「現物を持っていけば良いだけなんじゃない?」 以前にも似たような装置を突破した事があるのだ。今回も同じ方法を取るつもりらしい。「え?」 大関は咄嗟にクーカが言った事が理解出来なかった。自分の命に価値があるとでも勘違いしていたのであろう。「まて、わしが死ぬと……」 大関がそこまで言いかけたがクーカは迷わず引き金を引いた。一発の鈍い音と引き換えに大関は首を垂れてしまった。「安全装置が働いて工場が自爆と言った所かしら……」 それは想定内だ。クーカは腰から小型のナイフを取り出した。これからの作業にククリナイフでは大きすぎるのだ。 仏像の台座に入り口があった。指紋と網膜の認証のようだ。クーカは大関から取り出した指と眼球を使って扉を開けた。 そこには階段があってもう一階分下がるようだ。降りていくと机と研究設備が並ぶ空間があった。しかし、そこは放棄されたかのように無人だった。研究者たちは予め逃がされていたのであろう。 無機質な空間が煌々と明かりで照らされている。 その中をクーカは銃を構えたままゆっくりと進んでいく。警備員がいる可能性はあるが配置されている可能性は少ないと考えている。「んがっ!」 不意に足元が崩れた感覚に襲われ膝を突いた。目の前の空間がいきなり曲がりくねった

  • NAMED QUCA ~死神が愛した娘   第38-1話 通った跡

     地下一階。 全員が銃を構えたままエレベーターを見つめている。不意に開いた扉から何かが室内に放り込まれてきた。「手榴弾っ!」 誰かが叫んだが投げ込まれた物は、床に落ちる音と同時に炸裂した。強烈な音と閃光がホール内に充満した。「くそっ! スタングレネードかっ!」 警備隊長が自分の目を手で覆い隠しながら唸るように喋った。「撃てっ!」 だが、その掛け声よりも早く、ホール内に侵入を果たした者がいた。全員が目を離したので気が付くのが遅れたようだ。「ぐあっ!」 クーカは飛び込んで最初の男の首にナイフを突き立てた。そのままの体勢で隣に居た男の首を跳ね、返す刀で三人目の腹を切り裂いた。ナイフを使ったのは自分の存在を悟られるのを遅らせる為だ。(手前の右側に三人。 左側に二人。 左奥に二人。 右側奥に三人。 大関は一番奥の台座……) 彼女は右側の三人を始末している隙に、地下に居る人員の配置を見ていた。 男たちはいきなりの目くらましに気が動転しているのか銃を入り口に向けたままだ。次のターゲットはこの二人。その前に左奥の二人の内モニターを監視していた男にはナイフを投げ込んでやった。ナイフは男の首に刺さったが、傍に居たもう一人は咄嗟にしゃがみ込まれてしまった。牽制はとりあえずは成功だ。 クーカは腰から銃を取り出し、左手前の二人に銃弾を送り込んでいく。二人は横合いから来る銃弾に反応できずに、何が何だか分からない内に絶命してしまった。 ここまで掛かった時間は一分も無い。しかし、尚も台座に向かって突進していくクーカ。「くそっ! 小娘がっ!」 モニターの所に居た男が立ち上がって拳銃を撃って来た。しかし、クーカには当たらない。銃弾を右に左に避けながらクーカは男に迫っていく。「何故、当たらないんだっ!」 男は尚も引き金を引き続ける。しかし、銃弾はクーカの身体を捉える事無く床に後を残すだけだった。弾道が見えるクーカには無意味な行為だ。「悪鬼め……」 男の懐に飛び込んだクーカは右手のククリナイフで男の腕を薙ぎ払らった。それから、左手の銃で男の顎下から撃ち抜いた。 男は仁王立ちの状態からゆっくりと倒れていった。クーカはそのまま男の影から右奥の男たちを銃で撃ち倒した。 右奥に居た男たちはアサルトライフルを構えていたが、クーカが倒した男が邪魔で撃てなかったらしい。その

  • NAMED QUCA ~死神が愛した娘   第37-0話 偽りの施設

     工場の入り口。 ここに来るまでに妨害行為は皆無だった。工場内に兵力を集中させたと見るべきだろう。 工場の入り口には監視カメラが有った。クーカはカメラに向かって携帯電話をかざして何やら操作した。(よし…… これで時間が稼げるっと……) 彼女は強力な赤外線を放射させて、監視カメラのCCD部品を飽和させたのだ。 こうすると自動回復するまで暫くは時間が稼げる。外国の強盗団が良く使う手口だ。 普段なら銃の形をしたアイテムを使っている。だが、今回は日本に持ち込む暇が無かった。(確か…… この辺よね……) 彼女はエレベーターホールに辿り着いた。そして、ホールの隣に有る掃除用具などがある備品室に入り込んだ。 クーカは保安室で見せて貰ったビルの設計図を覚えていた。 五階にあると言う秘密エレベーターの入り口に行く気は無かった。敵が待ち構えているのは分かり切っているからだ。(入るのに手間が掛かるのなら、壁に穴を開けてしまへば良いのよ……) 彼女はショートカットするつもりなのだ。別に友好的な訪問をしに来た訳では無い。真面目に敵の希望通りに動く必要も無いだろう。 背中に背負ったウサギのナップザックを降ろして中から四角い粘土のような物を取り出した。(加減が難しいのよね……) 壁に粘土のような物を張り付けていく。映画やドラマでお馴染みのC4爆薬だ。自在に形を変えられるので、こういう作業には向いている爆弾だ。(ん?) 爆薬を壁に張り付けていると、エレベーターの動作音が聞こえて来た。(誰か降りて来る……) いきなり監視カメラが使えなくなったので様子を見に来たのであろう。「……」 仕掛け終わったクーカは爆弾を爆発させた。爆弾の爆風は動作していたエレベーターの安全装置を作動させ停止させてしまった。(これで何人かは閉じ込める事が出来たっと……) 懐から降下用器具を取り出し、エレベーターのワイヤーに固定した。これを使って一気に降りるのだ。爆破音が響いた以上は、敵に何が起きたのかは伝わってしまったはずだ。 固定を確認するとクーカは中空に身を躍らせた。降下器具はゆっくりとだが彼女を静かに地下へと降ろしていく。(地下には何人いるのかしら……) 降下しながらクーカは考えた。もっとも敵の数は彼女にとっては問題では無い。掛かってしまう時間の方が問題だった。だから、

  • NAMED QUCA ~死神が愛した娘   第36-3話 闇に紛れる者

     道半ばまで来た時に不意にクーカが立ち止まった。工場入り口までは一本道だ。迷うような場所では無い筈の場所だ。「右に三人…… 左に二人…… 化学工場に狙撃者が一人いるわ……」 クーカがそう呟いた。「……」 目を凝らしたが先島には見えなかった。 不意にクーカが空中に何かを放り投げる。次の瞬間。辺りは閃光に満たされた。 彼女が使ったのはスタン・グレネードにも使われる、アルミニウムと過塩素酸カリウムで練り込んだお手製の閃光手榴弾だ。きっとヨハンセンが作成してくれたものであろう。 襲撃されるのが分かっているのに暗くしている理由は暗視スコープを使用しているからだ。クーカは相手の視覚を奪って有利に事を運ぼうとしていた。(いやいや…… 先に言ってよ……) 先島が閃光に戸惑って立ち止まっていると、通用道路の右側を目指してクーカが走り出した。走ると言うよりは飛び込んでいくと言う方が合ってるのかもしれない。それと同時にククリナイフを外套から覗かせているのが分かった。「うぐっ」「そっちに行ったぞっ!」「ぎゃっ!」 声を掛ける間もなく暗闇の中から叫び声が聞こえた。銃声が聞こえない所を見ると相手が構える前に始末をつけているらしい。「仕事が早いな……」 先島も弾かれたように左側の樹の根元に銃弾を送り込んだ。ほんの一瞬だが人が居る気配がしたからだ。「ぐあっ!」 樹の根元に居た一人に命中した。目線を上に向けると樹の上にもう一人居るのに気が付いた。 上半身を起こしている。狙撃するつもりがいきなりの閃光で気が動転していたに違いない。無防備な状態で顔から暗視スコープを外そうとしているらしかった。 先島は続けざまに銃弾を送り込んでやった。樹の上の男はスローモーションのように落ちて行った。 その様子を見ていたクーカは先島に近寄ろうとした。すると。ヒュンッ クーカの耳元を何かが通り過ぎ、傍の樹木に弾痕を作った。狙撃されたのだ。(そういえば狙撃手が居たわね……) 足元を見ると倒れた男はライフルを持っていた。クーカはそれを拾い化学工場に向かって立膝で構えた。狙撃手を片付ける為だ。 大体の所に狙いを付けると引き金を引く。自分の狙撃銃では無いので撃ちながら調整する為だ。 一発目。(左に逸れている……) 二発目。(右に逸れた……) 三発目。(これでお終い……

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